5/7【身体操作編】 咆哮のカート
拳は拳面(パンチで相手に当たる面)が内側に向かい合わせ。手首は橈屈して
親指の第一関節と人差し指の第二関節が対戦相手のこめかみを挟み撃ちに
します。
拳面が平ら、親指が人差し指と中指を覆い親指先が小指側に向いている点
からは、この腕の持ち主が研鑽を積んだ武術会得者と想像できます。
両拳でぐりぐり頭部を挟まれることを私が小学生の頃には梅干しと呼んで
いましたが、地域性はあるのでしょうか?
宿題忘れたり問題に答えられなかったりすると与えられる罰でした。
上の腕は肘を境に上腕外旋、前腕内旋で、キャンディの包み紙を両端逆方向に捻るのと同じ構造。纏絲勁の威力を内包しています。
もし拳の高さがこめかみならば、1956年に毛沢東率いる国家体育委員会が制定した、簡化二十四式太極拳の十四式・双峰貫耳そのものです。
武術はこの上二本の腕のように上へ向かう勁力があれば必ず他の部位が下へ
向かい、互いに引き合う仕組みを持ちます。両腕を挙上していれば下へ向かう部位は脚しかありませんが、この彫像、脚は中性浮力でホバリングしているのです。下へ向かう勁力を持つのは腋を緩めて墜ちる下二つの肘でした。
沈肩墜肘とは、肩と肘に対する太極拳の要求です。不要なこわばりがなく、
肩甲帯を安定させて中心軸から動くことが目的です。他の運動やボディー
ワークにも共通して言えることですが、肘に重さを感じることが自然体の表現となります。
肘と膝は対応し、肘が屈曲すれば膝も屈曲します。
手のひら上向きは陽、下向きは陰となり、下の右腕は陽、左手は陰の対(つい)です。
一般的に龍は手に宝珠を持っています。神様や仏様の領域の人たちは手の平を上に向けています。野村萬斎さんがモーションキャプチャーアクターとして
演じたシン・ゴジラは掌上向でした。この下右手には、レースの無事を祈る
神性が託されたのかもしれません。
下左手は低く配置され、肘をやや張って中立的な脱力。物を持たない手です
から、機能解剖学的に理にかなっています。
ニュートラルな腕があるからほかが強調される利点もあります。
上が左右対称だから下が非対称でリアルさも引き立つというもの。
きっと作者の片桐仁さんは疾走感、力強さ、自然な身体操作などを表現する
ために、実在する肉体にポーズを取らせ、観察眼と技術力によって構造に
忠実に再現なさったのではないでしょうか。
アンガーマネジメント片桐。
とんでもないものを観に来てしまいました。