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1/3 檜舞台の結晶

開演一時間前。立ち見券に二人の女性が並んだのを見たあと、辺りを散策することにしました。

この地は大きなキー局が広い敷地を占めています。
向かいの建物には社屋内観覧に来た客か、もしくは子役かと思しき大勢の子どもたちとその保護者さんがロビーで待機中でした。
十八時過ぎで空腹なのか、すっかり待ちくたびれたのか、はたまた良い子にし慣れているのか一様におとなしく座り、年にそぐわぬ貫禄に見えました。
間も無くしてやって来た引率役の大人が引き連れるのを見て、ハーメルンの笛吹きの挿絵を想起しました。

ガラスの自動ドアを入ってすぐ左手の小型テレビは高視聴率を記録する連続ドラマの予告ショートムービーを繰り返していました。
ほんの一瞬黒いベンチコートの跳躍する歩行はこれから隣の劇場に立つひとの、別の顔でした。

入り口で女性が、わたしの視線の先に目を向け、押していた車椅子を停めました。

「明石達也…四十一歳か…へぇー。」
呟き動画を一周観たのち、車椅子でひと言も発さず微動だにしないお嬢さんを自身のほうへ振り向かせ、読み上げたパネルを背景にスマートフォンで静止画を一枚撮る音をさせました。
おふたり撮りましょうか。喉まで出かかったのに、その場を動けませんでした。

 


一昨日、職場の事務所にその時間居た全員が明石明石と口にしては前回の放送回を楽しそうに語っていました。
わたしは眺めていたファイルをキャビネットに戻す素振りで話の輪に近付き耳を傾けました。
どうやら彼の背後にあった看板がどうとか、まさかあの台詞が出るとは、とか各々勝手なコメントで統一性がありません。
彼等を興奮気味に駆り立てたものの半分はその職場の自由な気風で、もう半分は、あの番組が彼にもたらした魅力でしょう。
その話を始めた張本人は役職者のくせに会社のパソコンを利用し、そのシーンに存在した背景をネットで探し出したのでわたしは思わず苦笑しました。