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石粉粘土で土偶を作る

作品が仕上がってしまうと、嬉しさより寂しさが勝つのは何故だろう。

毎日手を入れて一緒に成長してきた物が「もうこれ以上触れないで」と言ってくる。

 


完成のちょっと前が一番可愛い。

もうちょっと何とかしてもらえないだろうかと必死に作品が訴えている期間がお互いにとって最も緊張感があって最もお互いを必要としている時間だ。

 


完成してしまうとそれは、物理的な意味ではなく心に訴えるという面で、「見てくれる人のもの」になったり、展示すれば「それがどのくらいの集客をもたらすか」という別の価値を担ったり、新たな作品作りのヒントをくれたり創作意欲を掻き立てる存在となっても心理的距離は遠くなる。もはやしてあげられる事は無い。

 


文章を書いていても同じで、推敲の時間が永遠に続けばいいのにと思うし、料理も作るのも、作ること自体が楽しくて味見をしたらもう良いやと思ってしまう。

無論、現実では質より量を優先させたり過程より目的が大事だからそれなりで仕上げる。でも口には出さないがそれなりである事にがっかりしていて、もうちょっと時間と技術があったらなぁという自省の繰り返しだ。

 


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何故、土偶を作ろうと思ったか。

と尋ねられたので、犬を作って余ったのでと答えた。

愛犬が亡くなって途方に暮れる間も無くわたしは初売りで賑わう正月の町へボサボサの髪とすっぴんのまま飛び出し粘土を買った。

 


正月だから焼き場も閉館していてご遺体と過ごせるのは3日間。

我が家で一番寒い場所を探して犬を安置し、外に出るような完全防寒のいでたちでそんな風呂場に入り、スケッチしたり計測したり作った物と見比べたりした。

 


死んだら庭に埋めるのが我が家流で、今回もそうしてしまうならわたしは遣り切れない。だから遺体がある内に記憶に細部がある内に形にして部屋に置いておきたかった、それだけの理由だ。粘土作品はそれまで見るに限ると思っていた。作るなんて考えもしなかった。

 


愛犬のフィギュアは全く納得出来ないものが二体、どうにも終わりにしたくなくてしっぽをつけないまま、残りの粘土で別の物を作り始めた。

 


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仕上がっても寂しくない程度には愛着のない物体をモデルにしようと家の本棚から何冊か図録を取り出し物色していると、着色剤の色数が少なくて済みそうなのがあった。

 


2018年の図録は縄文展である。

 


大体犬を作ることしか想定していなかったから最低限の色数しかアクリル絵の具を用意していなかった。

しかも我が家の愛犬はレッドと呼ばれるいわゆる茶色単色だったので、鼻のピンクと目玉の黒と白を含む6本ほどを、お正月にお店の人に握らされていただけだ。

 


似ている、と思った。

犬よりちょっと濃いけれど、同じ絵の具でいけるだろう。

 


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それからわたしは都内近郊で訪ねられるだけの縄文時代の遺構を訪ねた。

亀ヶ岡遺跡の遮光器土偶が難しそうだが作り甲斐がありそうだ。

現地に飛んで縄文展以来再度本物を見に言ってしまったほうが移動費用が少なくて済むのではないかと思うくらい、亀ヶ岡遺跡の物ではない縄文の遺物とレプリカを見に、都内中歩いた。

幸いなことに大体の展示は写真撮影を許可され、犬を作るときに苦心したので360度舐めるようにあらゆるら角度から写真を撮らせてもらった。

 


ところがいくら見ても帰って粘土を前にすると分からないことが次々と湧き出る。

 


土偶の色は何故少しずつ違うのか

土偶は服を着ているのか飾りをつけているのか、だとするとそれらは何なのか

・そっくりそのまま真似て良いのか、いけないとするとどんな理由があるのか

・そもそも何のために土偶は作られていたのか

・サイズに共通点はあるのか

・縄目文様の縄はどのように作るのか

 


縄文時代に関する情報を漁る。ネットだけだと心許ないから本を読んで頼れそうな筆者を探してまたその筆者の著書を探して。

 


結論から言うと、正解が無くて謎のままな事柄が多かった。

説はあるが解が無い。

 


土台のスタイロフォームを削るタイミングで遺跡や遺構を訪れており縄文人に畏れ多さを感じ始めていたので、ミステリーな部分については、彼らに対して成し得る配慮をなるべく心掛けることにした。

 


土偶の色が違うのは土地や時代に依るものだった。それを知るまで土偶はみんなベンガラで彩色されていたように誤解していた。

 


・東京都埋蔵文化財センターに展示されたマネキンの、どなたかが考証して作ったらしき服を頼りにすると、土偶は服を着ていると考えた。チャイナ服のボタンの様な物も服と同じ素材で作られていたのではないか。もしかすると翡翠や黒曜石を玉にしてボタンにしたいなどと思いついたかもしれない。また、当時の気候は温暖化したとは言え毛皮も着ていたのだろうから裾がもふもふ広がっていてもおかしくない。明治大学土偶に関しては腕章の様なものは腕まくりで、國學院大学の頭の上の香炉の様なものは髪飾りに見える。空いている部分に紐を掛けて吊るしたかもしれない。

 


・二つとして全く同じデザインの土偶は見つかっていないという文献を見つけた。亀ヶ岡遺跡の遮光器土偶の有名なのを真似ても、その細部にはオリジナルのデザインが施されても良いのではないか。

 


・目的もサイズも今ひとつはっきりしない。だが女性の手で持ちやすいという指摘もある。妊娠出産の際に握ったなどとの解釈もあるようだが亀ヶ岡遺跡の遮光器土偶は持ちにくい。

 


土偶に押し付けてある模様は縄文原体と貝殻と竹と細工をした棒などで、さまざまな博物館で見られた。東京都埋蔵文化財センターでは文様付け体験コーナーがあった。

 


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スタイロフォームにデザインを書き写してスチロールカッターで切る。

 

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・ひと回り小さく仕上がるように石粉粘土を盛り、2、3日乾燥させて収縮・乾燥したら鉛筆で細かいデザインを書く。

 

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・縄目文様を付ける部分に石粉粘土を盛り、少し乾いたら縄文原体を押し付ける。


・天然石のビーズをボタンやアクセサリー代わりに埋め込み固定させる。

 

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・遮光器、ウエストより下部の服の模様はどうも左右対称ではなさそうなので、好みのデザインに。

 

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・石にマスキングテープを施しサーフェイサーを吹く。

 

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・ベースカラーを吹く。

 

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・筆の作業。墨入れはベースより濃い色を薄く溶いたアクリルカラーを筆塗りして乾燥前に神で拭う。クリアカラーは明るい色を出っ張った場所に塗る。

 

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・仕上げにツヤなしニスを吹く。


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粘土作品で、ちゃんと仕上げたのはこれが一作目なので愛着がある。

 


もっとこうすれば、ああすれば、は無限に湧き出るけれど、次に生かすことにして六割くらいの納得比率で作業を進めたほうが良いとどなたかブログで仰っていた。その通りにした。なるほど粘土はいくらでも修正出来るが、締め切りがない状況でそう心得てしまうと延々と終わらなくなってしまう。

 


それから、粘土作品を作ろうとした時に「粘土塗り方」「粘土メーカー」などと粘土ベースで検索していもあまり情報に恵まれないが、ある時から「フィギュア」「秋葉原」「プラモ」をベースに検索し始めたところ情報収集が捗ったしその世界の人々に大変救われた。

 


独学で粘土作品を作るのは、この時代なら、茨の道でも無い。大事なことは縄文人が教えてくれる。

 

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・材料

 

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パジコ 石粉粘土ラドールプルミエ(¥418)

パジコ 粘土べら3点セット(¥216)

天然石ビーズ(¥54〜)

パジコ ステンレス細工棒(¥892)

日東 マスキングテープ5ミリ(¥223)

コニシ ウルトラ多用途S•Uプレミアムソフトクリヤー25ミリ(¥648)

ジェッソ500ミリ(¥1,944)

グラッド プレスンシール(3箱¥1,680)

筆(¥302〜)

紐(¥194)

 

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