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3/4【試写会感想】葱嶺の雄姿

予告編は何度も観ました。観覧前は只のお気に入りの俳優さんのコメディタッチの演技という印象だったのに、試写会のあとは苦しく感じました。


人生これまでかとがっくり膝を折る一連のシーンには力尽きる直前に肚の底から絞り出された、生きたいという声が聴こえました。

 

そんな切実な状況に置かれたことも気持ちになったことも幸い今のところありませんが、観覧後観た予告編では全身が内側から締め上げられ苦しくなり何度もむせび泣きました。
その度、絶命寸前の叫びとはこういうものかと、共鳴した身体が震えます。


如何にしてそんなお芝居が彼の内側から湧き出したのか、驚きしかありませんでした。今迄知っていたその人では無い別人に見えました。

 

足を引きずり歩く動作も、石だらけの荒れた地に倒れ込む動作も、いつか自分がヘルニアで立ちも座れも眠れもしなかった日の痛みを想起させ、もう今の仕事は続けられないかと絶望した気持ちに重ね、身体中が思い出した痛みで軋み涙がこぼれました。

 

 

 

もうひとつ胸を締め付けられたのが動物が関わるシーンです。
動物と片桐仁さんの相性は最高で、接しかたや撫でかたに人類愛を超えた世界平和の素みたいなものが感じられます。
そのシーンでも彼の手から温かな愛情が振り注がれている気がしました。


彼の手にかかると造形は命を吹き込まれ、生き物は幸福に包まれ、白黒の台本は極彩色に、観る者を踊らせます。
彼の存在は語彙を奪い、わたしから陳腐な言葉しか出させなくします。
片桐仁さんは買いかぶり過ぎだと謙遜なさるでしょうか。それとも、「そうか〜?」とお得意の広い音域で返すでしょうか。

 

 

 

記者会見会場から逃げ出すシーンにはいつもの片桐仁さんを見て取れようやくほっとしました。タクシーに向かう後ろ姿の指先が伸びていました。長い脚のリーチで革靴を鳴らし短距離走で一等賞。客席の何処かの男性がグハハっと笑いました。

 

 

 

待ちに待った一杯のラーメン。手を付けるのをやめようか、所在無さげに組まれテーブルに置かれた指先は、赤星の苦悩を伝えます。他には流れる台詞だけのシーンなのに。

 

DVD「ベターハーフ」の台詞に、「俺の好きな人の悪口を言うな」があります。わたしはその時の凄みを思い出しました。
現実と対峙するとき、夢想する世界とのギャップに二の足を踏む。その表現の鮮やかさに胸の奥を突かれました。

 

胸に迫るものがあり、そして最後には最高にハッピーになる。
彼の最高傑作に違いありません。これからも最高を更新し続けることでしょう。

 

 

 

この日わたしは試写会会場から最寄駅のほんの3分を迷子になりカフェやショップの店員さんに助けを求めました。

人生初めて応募した試写会の当選で運を使い果たしたのか、行けども行けども辿り着きません。

15分彷徨い尚答をくれないナビゲーションシステムに愛想を尽かす迄の時間を、3月8日「法テラス」の寄稿文に叱咤されました。

 

スマホは便利。最後は人と人とのつながりだと思うんです」。

 

スマホを閉じ三つの扉を開けると、ファンシーグッズショップの女性、タクシー営業所の男性、カフェの男性が快く力を下さり、わたしは小さな出会いに感謝しました。

 

この映画の作中にも人との出会いが登場人物を絶望から救い、幸せな結果へ導くというテーマがあります。
ラストシーンは片桐仁さんのとびきり美味しそうな食事シーンと温かな人情味で締めくくられていました。


どうしたらあんなに美味しい顔が出来るのでしょうか。

身体の使い方はいつも変わらなく、やはり同一人物です。
そんなところに安心を探してしまうほどには別人でした。

 

その、最後の食事シーンの表情は片桐仁さんのバラエティ番組で観た食べっぷりと全く違っていました。
一体どちらが本当なのでしょう。
どれも違ったりして。
もしかして本当の片桐仁さんはどこにもいないのでは?

 

それでついチケットを手に劇場を探します。
良かった。生きていた。同じ地球に元気でご活躍だと、当たり前のような当たり前じゃないようなことに胸を撫で下ろし日常に戻ります。

 

多彩な顔を持ち、幅広い才能で観た人を笑顔にする、片桐仁さんを見ていて日常に陽光が差します。

 

「今年の冬は、怖くない」


お気に入りの、コントの台詞。出逢えた2017年の冬は彼の存在のおかげで、今までで一番温かな気持ちで暮らせました。