7/9【 どこにいるでしょうか?】世田谷パブリックシアター シアタートラム お話の森2018年8月5日に寄せて
はやく、つぎのよんで!
とのリクエスト。
「もうつぎ?つかれちゃったぁ」
ときは1970年代、宅地造成がさかんな頃作られたお話。そんな説明が、このお話の最後に片桐さんからありました。
森には、子どもにしか見えない誰かさんが住んでいて、お話の中で一緒に遊んでくれます。が、ある時急に森ごと姿が見えなくなって、あれ?幻だったのかな…?
でも、けいこは思うのです。またあの子と会えるんじゃないか、と。
しもての切りかぶをちからいっぱいひっくり返して片桐さんが見つけた『森のかくれんぼう』には、森の生き物たちが木々にまぎれてだまし絵のようにぼんやりと描かれています。その中に「大人8人がかりで探して見つけるのに15分もかかった」と言うほど上手な子がひとりだけいるのです。それが“かくれんぼう”くんです。
けいこがお兄ちゃんを追って、いけがきをくぐるとそこは見たことのない森です。お兄ちゃんの姿はありません。こわくないと自分に言い聞かせるために歌いながらおずおずと森に分け入るけいこ。すると誰もいないはずの森から歌でお返事がかえってきます。
この時のけいことかくれんぼうの歌は、のちにおにいちゃんのさがし歌と同じ節回しで、片桐さんの胡弓のようにあったかい声と楽士さんさんのアコースティックギターの音色とが、ほの明るい静寂にとろん、ぽろん、とけあっては消えてなくなります。
声のする方をさがしても見つからない“かくれんぼう”。さかだちしておいらをさがしてごらん、できないなら、“あしの あいだから、さかさまに みるんだね”。
片桐さんはけいこといっしょになって仁王立ち。深くおじぎするようにひょいとまたぐらからうしろの景色をのぞくと、かぶっていたボーターを足のあいだにポサリと落とし森の奥をのぞいて“かくれんぼう”を見つけます。“わあ、ほんとに みえた!”
お互い、自己紹介します。
「“あ、あたし たかはし けいこ。”」
「じょゆう!」
またまた片桐さんたら、本にない肩書きなんかつけて別人に仕立てあげて客席の大人をわかせてしまいました。
ここからは、森のどうぶつたちもかくれんぼに参加です。
ほんのり照明が落ち、クローズアップされるスクリーン。でもまっ暗ではありません。絵本の森の中に動物がかくされているといいますが、食い入るように見つめるのはもう子どもたちだけではありません。大人も身を乗り出して。
「さぁさぁやってきました!どうぶつさがしターイム!」
今度は名司会者です。
くまー!
「くまさん?いるねぇ!どこー?」
りすー!きのなか!
「りすさんね。かくれているのは、みんな、きのなかだから、あおいひかりの、みぎかひだりでいってくれる?」
ひとー!
「ひとは、やめよう?けいこは…」
他の背景と同じようにくっきりと描かれています。
そのうち、わからないけどおしゃべりしたい子はズルして
いたー!
見つけたー!
「どれどれー?」
かもしれない…
「かもしれない?」
…しーん。
そしてとうとう、小さなお客さんはふくろのなかに飛びこんでしまったねこたちのように、言ってはいけないおはなしのさきのさきをみんなに教え始めてしまいます。あらら?せっかくのお話の会が、楽しくなくなっちゃうぞ?
昼の部には子どもたちを王さまのように丁重に扱っていた片桐さんですが、夕の部では相方のようにして掛け合いを繰り広げました。
「みんながおはなしのさきをいっちゃうんだったら、もうよまないもんねー!」
それはいやだよ!きちんとお話聞こう!
お口にチャックしたみんな、えらかったね!
それでも2ページも先の答を言っちゃうお友だちがいるぞ?
静かにしてくださいともさせてくださいとも言わず、シーッなんてゼスチャーもせず、片桐さんは大人でも子どもでもない、少し子ども寄りの中間地点で、うろたえ困って見せて子どもたちの良心を引き出します。
「そんなのセンスがないよぉ」
こらえきれず客席の大人が
わはははっ!
「やることが…子どもかよ……子どもだよ」
その困惑のしぐさを、わが子育てに重ねた客席の親御さんから、あるある、と失笑がこぼれるのでした。
“かくれんぼう”のかくれ場所を探すクイズはいちばん難しくて、絵本を3段階に大うつしにしました。
画面いっぱいにしてようやくわかるかな?正解をポインターで指すと会場からは、はち切れんばかりの、
えーーーっっっ!!!!!
モーフィングのように、見つかる前とあとの絵を交互に映しだして。
せっかく用意したプロジェクターの大写しより本のほうが見つけやすかったのは、客席のライトを真っ暗にはしなかった思いやりの、おもてとうら。