3/9 【ぶたぶたくんの町】世田谷パブリックシアター シアタートラム お話の森2018年8月5日に寄せて
落ち葉の小山の中から掘り出した絵本は、“ぶたぶたくん”の、はじめてのお買いもの。文字がとても多いです。
読みながらぶたぶたくんのたどった道を想像すると頭の中に町が出来あがり。思っていたとおりの町だったかどうかは、最後のページの地図で答えあわせができます。
お話の中でぶたぶたくんがお母さんに買いものかごを渡されると、片桐さんもバスケットを腕にかけます。ぶたぶたくんが“ぶたぶた ぶたぶた”と歩くと、片桐さんも“ぶたぶた ぶたぶた”歩きます。お店で買いものをすると、同じものをバスケットに入れます。
しもて前方の落ち葉の小山は八百屋さん。そこにかくれていたじゃがいもとトマトを拾いあげます。かみて前方へ行くとパン屋さん。パンを包んだ茶色い紙袋が洗面器のとなりにありました。しもて奥のお菓子屋さんからはキャラメルを。
みんながおなかをかかえて笑っちゃったのは、八百屋のお姉さんが早口でまくし立てるところ。音楽に合わせて読みます。
ところが楽隊さんはわざと超特急で演奏して片桐さんを急かしました。
いくら本読みのプロ片桐さんでも、あんなにはやい音楽に合わせてしゃべることはむずかしかった。
片桐さんはけんめいにやってみたけどついていけなくて
「はやいはやい!!」。
まゆねを寄せて音楽をとめさせ、もう一回チャレンジ!
そして見事、めちゃくちゃ早口でぜんぶ読み切った!
だけど今度は読み終わったというのに音楽がやみません。それどころかますます大きな音に。片桐さん、楽隊さんの暴走をまたもや止めなきゃならなくなってしまいました。声も顔もとても必死。そのようすがおかしくて客席の小さなお客さんがバタ足で笑っています。
それとは反対に、お菓子屋さんのおばあさんのまねっこ。これも大笑いだった。
おばあさんのセリフを引き延ばし、ひと文字ずつ。狂言師のような独特の調子で。大げさに間のびさせてぶたぶたくんとおしゃべりしながら、一文字一歩、一文字一歩、のーそーのーそ。よーろーよーーろーーー、やーーーーーっとこさ歩きながら。
ゆっくり過ぎて息がつづかなくなる寸前、おばあさんのセリフをしぼりだす声は、急ごうと思っても急げない本物のおばあさんそっくりでした。
笑っていたらつい忘れちゃいそうだったけど、ぶたぶたくんが、三軒のお店のそれぞれで何を買ったか、もしもおぼえていたらすごいですよね。片桐さんはクイズを出します。
夕の部のみんなは、ぶたぶたくんがいちばんはじめに何を買ったか、大きな声でおしえてくれましたよ。みごと、正解でした!
このお話の拍子抜けなところは、何か事件が起きそうで何も起きないところ。
初めてひとりでお買い物に行くぶたぶたくんを、わたしたちはわが子のように心配しながら見守ってしまいました。
でも、その心配は大人だけのものだったのかしら。
ぶたぶたくんのお買い物は何もかもがうまくいきます。ひとつも忘れずに買うことができたし、お買いもののあいだじゅう親切なお友だちといっしょでした。
お母さんに会えて思わずかじりつくぶたぶたくん。片桐さんも読んでいた絵本にかじりついて、「ぶたぶた」としゃべろうとしますが、かじりつきながらでは、せりふが読めない。歯ならびのいい歯をぜんぶ出してためしに読んでみるけど聴きとれません。
「なにかありそうでなにもおきないおはなしでした。“こぐまくん”というネーミングはどうなんしょうか?!おとなになっても“こぐまくん”ですか?」
大人はちょうど自分たちが胸をなでおろしたばかりで、くつくつ笑ってしまいました。
この本に登場する”かおつきパン”はどうして、かおパンじゃなく”かおつきパン”なんだろう。不思議がりながら、お手製かおつきパンを焼いてきた片桐さん。
焼き上がりの地肌の具合を、卵を塗って発酵が進んでしまったせいか、
「松井秀喜チック」
と評します。そんなおしゃべりを子どもたちは、きょとーんと聴いています。
昼の部では片桐さんが腕に引っかけたバスケットの、取っ手のひとつがポロリと取れてしまいました。これからたくさんお買いものをするというのにどうしましょう?
片桐さんは無邪気に
「もちやすい!」
目を輝かせながら大ぶろしきを広げて、みんなの笑いを誘ったのでした。
もちろんそんなセリフはぶたぶたくんの絵本には見あたりませんでした。