2/7【招待編】 咆哮のカート
片桐仁さんは挽きたての寒ざらし粉の匂いがしました。
ほんのりとあまく雑味のない、清らな雪室の。
以来、封を切りしな深呼吸しては咳き込むのです。
いつも通りに虚勢を張れないのはどうしてだろう。ひとつお願いしてひとつ
忘れて。間を埋めるつもりが口をすべらせて。
謝らなければ謝らせなくて済むのに、初めて出会った片桐仁さんに、したてに出過ぎてこじらせてしまう。
「さっき撮らなくてごめんなさい。」
却って謝らせてしまった。
その澄んだごめんなさいはきっと、全てのお客さんを平等に扱おうとするプロ意識でしょう。
頼むことを忘れていたのは此方なのに。
来た道を引き返しかけると背後から、個展へのいざないが放物線を描いて、
謝らせてしまった後ろめたさを射落してしまった。
二人収まったフレームは、現実のようでもあり非現実のようでもあり。