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1/4【はじめに】葱嶺の雄姿

想像力は必ず意志の力を上回る

 

フランスで自己暗示を医療に取り入れた第一人者・エミール・クーエの言葉です。

 

 

実際に傷を負っていなくても、脳は痛みを再生し体現させると聞いたことがあります。
子どものころの記憶です。痛くて嫌いな予防注射。行列の前の子が受けるのを見てしまうと自分までもが痛く感じた、あの仕組み。
正にそのシーンはわたしにとってそれで、思い出した痛みに身体が軋みました。

 

半年ほどで回復した二年前の椎間板ヘルニアは、遭難事故で生死の境を彷徨う料理研究家の苦悩には程遠いです。
思い出せるのはこんな事くらいで、やはり自分は幸せな境遇に生きています。

片桐仁さんは死の淵を覗いたことがあるのでしょうか。
そう勘繰ってしまえるほどには、赤星亘が乗り移っていました。

 

観るたびに別人の顔を持つ変幻自在ぶりをずっと不思議だと思い、何とか分かりたくて理屈をこねるのです。片桐仁さんの想像力が尋常でなく豊かなせいで、そうしてしまえるのではないかと。

 

 

 

クーエは「上回ろう」と意識するなと言います。ただ想像豊かに居なさいと。

それが片桐仁さんに出来てしまえると想像する根拠は、彼の造形作品を見てより確信を強くしました。

 

 

片桐仁さんご本人はひとりの人生を歩んでいらしたのに、何十人何百人と演じ分けてしまう。
そこに一体、どんなご苦労がなされたか。
それこそ赤星亘の、ラーメン修行にいそしむ若い二人に掛けた台詞のように此方は「さっぱり存じ上げません」。


そう見せないのは照れなのか、人を笑わせ幸せにする使命を負っているからなのか天性なのか、不幸さは微塵も漂わせません。

 

その幸せ感はさながら作りたてのラーメンから湧き立つ湯気のように浮遊し、予告編に流れる絶望に一握の希望と親しみを感じさせ、ああ、やはり、片桐仁さんでないとこの台詞は生きないと妙に納得して、エンドロールを眺めながらもう一度観ることを決めました。